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[ 大型本 ]
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ぴあシネマクラブ外国映画編2004-2005
【ぴあ】
発売日: 2004-03-26
参考価格: 4,200 円(税込)
販売価格: 品切れ中
中古価格: 9,800円〜
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カスタマー平均評価: 4
映画ファン必携! 古今東西の洋画のありとあらゆるデータが盛り込まれたまさに映画データブックの横綱である。映画1本1本につき簡潔なコメントが付いておりこれも便利である。ただし、盛り込まれているデータがあまりに膨大なため付録としてCD-ROMかDVDをつけて検索機能をフルに活用できるようにしてもらえると完璧だ。
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[ 単行本 ]
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高田宏治 東映のアルチザン
・高田 宏治 ・西谷 拓哉
【カタログハウス】
発売日: 1996-12
参考価格: 2,957 円(税込)
販売価格: 品切れ中
中古価格: 9,799円〜
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・高田 宏治 ・西谷 拓哉
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カスタマー平均評価: 0
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[ 単行本 ]
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山中貞雄物語―沙堂やん (Big Superior Comics Special―日本映画監督列伝)
・やまさき 十三 ・幸野 武史
【小学館】
発売日: 2001-09
参考価格: 1,890 円(税込)
販売価格: 品切れ中
中古価格: 9,790円〜
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・やまさき 十三 ・幸野 武史
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カスタマー平均評価: 5
胸熱くする、若き映画魂 これは、わずか28歳の若さで戦死した天才映画監督・山中貞雄が『磯の源太 抱寝の長脇差』でデビューするまでを描いた漫画である。少年時代に見たチャップリンの『キッド』の衝撃、中学時代の先輩マキノ正博(雅弘)との出会い、脚本部での厳しい修行時代、助監督時代、そして初監督まで、やまさき十三はテンポよく構成している。マキノ省三、嵐寛寿郎、南光明、岸松雄、そして小津安二郎と多士済々な顔ぶれを手際よく登場させながら、紅一点・芸者「染乃」という架空の女性を登場させ、山中との淡く切ない恋を描きながらそれがデビュー作に連結していくあたりの大胆な脚色もうまくいっていると思う。山中貞雄は、アゴの長い、一見冴えない風貌であったが、作画の幸野武史はその「アゴ」を最大限に活用し、天才監督を人なつこい、憎めないキャラクターに仕立てた。単行本の口絵には、写真も載っているので見比べて見ると面白い。漫画執筆に際しては、原作者も作画者も、文献資料をかなりキッチリと読みこんでいる跡が窺える。たとえばマキノ正博の『浪人街』がキネマ旬報で1位に選ばれた時、祝辞の席で父・牧野省三が、息子を誉める代わりに罵倒したというエピソードは、実際にマキノ雅弘の自伝『映画渡世』にも出てくる。また小津の隣で、山中のデビュー作を見ている太った男は、名前こそ紹介されないが風貌から清水宏監督であることが分かる。 個人的にはサード助監督時代に、子供の演技指導をする挿話「助監・サード・山中」と「本番いきます」に感動した。本当にこういうエピソードがあったのかは分からないが、山中の姿を実に生き生きと描いているからだ。ヒロイン染乃は、「あの人は、女には女の視線で、子供には子供の視線で、犬には犬の視線で、物事を見ることのできる人です」と言わせている。それは残された作品『丹下左膳余話 百万両の壺』を見ても一目瞭然だろう。一方で弱者の真情を汲み、しかしこと演出ではベタな泣かせかたを厳しく禁じた彼のストイックな姿勢、「生きた映画(シャシン)を作りたい」という若き映画魂に、胸を熱くせずにはいられない。 解説を山根貞男が書いている。彼も書くように、山中貞雄の作品がこれから1本でも発見されないものかと願わずにはいられない。
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[ − ]
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日本映画人名事典 男優篇〈上巻〉
【キネマ旬報社】
発売日: 1996-10
参考価格: 10,500 円(税込)
販売価格: 10,500 円(税込)
Amazonポイント: 105 pt
( 通常6〜9日以内に発送 )
中古価格: 9,780円〜
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カスタマー平均評価: 0
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[ 単行本 ]
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国語教育の方法
・時枝 誠記
【有精堂出版】
発売日: 1987-07
参考価格: 2,415 円(税込)
販売価格: 品切れ中
中古価格: 9,529円〜
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・時枝 誠記
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カスタマー平均評価: 0
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[ 単行本 ]
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日本映画原作事典
【日外アソシエーツ】
発売日: 2007-11
参考価格: 12,600 円(税込)
販売価格: 12,600 円(税込)
Amazonポイント: 126 pt
( 通常6〜9日以内に発送 )
中古価格: 9,450円〜
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カスタマー平均評価: 0
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[ 単行本 ]
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世界ミステリー映画大全
・北島 明弘
【キャプラ愛育社】
発売日: 2007-05
参考価格: 9,030 円(税込)
販売価格: 9,030 円(税込)
Amazonポイント: 90 pt
( 在庫あり。 )
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・北島 明弘
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カスタマー平均評価: 0
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[ 単行本 ]
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小津安二郎全集
【新書館】
発売日: 2003-03
参考価格: 12,600 円(税込)
販売価格: 12,600 円(税込)
Amazonポイント: 126 pt
( 在庫あり。 )
中古価格: 9,000円〜
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カスタマー平均評価: 5
「豆腐屋はトーフしかつくれない」
シーン36:道
(路傍にたくさんの人がタカッている。
大きな碁盤に石をならべた五目屋、
藤岡が打ちこむのを待っている。
藤岡、石をとりあげて打つ。
しかし自分の負けであることに気づいて、
金を払って去る)
(五目ならべでスッた藤岡、
家に帰り、どっかり腰を下ろす。
ふと衣桁にかかった女房の着物をみる。
碁盤に似た柄である。
藤岡、五目をやる気持で
その着物をじっと見る)
(先ほどの夫婦ゲンカで
すっかり腹を立てプンプンしている女房、
戸のすきまから藤岡の様子をうかがう。
そうとは知らず
藤岡、女房の着物を指さして)
「アイツがこう出たら
オレはこう行けばいいのだ……」
(女房、カッとしてしまう)
●『引越し夫婦』より
シーン37:空地
(学生二人、窓の下へいく。
一人が四つん這いになって、
もう一人が上にのり、窓をのぞく。
しばらくして、交替する。
一人が替って四つん這いになる。
その上へ一人がのって、覗く。
背中には、クツの跡が歴然とついている)
(そこへ、家主が帰ってくる。
そして窓を覗いている学生二人をみると
憤然として、コラコラと近づく。
学生二人、ビックリする。
クツの跡のついた背中を見せながら逃げでる。
家主、見送ってから、同じく窓を覗いてみる。
が高くて見えないため、
電柱に苦心して登り、家を見下ろす。
中で、仲よく話をしている女房と若い男。
家主、眼をこすって見直し、愕然とする)
●『肉体美』より
シーン2:早稲田付近の街
(ある家に“二階かし間”の札が貼ってある。
それを見上げている会社員。
やがて会社員、その家の玄関に入る。
玄関でコマを廻して遊んでいた当家の子供、
顔を上げて会社員をみる)
「貸間が見たい」
(子供、不明瞭な表情でうなづく。
会社員、二階へあがっていく。
子供、フンといった顔付で再びコマを廻し始める)
(会社員、二階へ上ってきて障子を開ける。
貸間のはずの座敷に、モウモウと
タバコの煙を吐いて大学生がトグロを卷いている。
会社員、いささか面食って)
「あの……貸間を見にきたンですが」
大学生「お気の毒様ッ
ボクが今朝引っ越してきたンです」
(会社員、まだ不審そうな顔をしている)
大学生「あッ、まだ貸間札を貼ってありましたか」
(と、窓から手をだして貸間札をとって破く。
会社員、礼をいって降りていく。
大学生、それを見すまして、しばらく後に、
新しい貸間札を、窓へ貼りにいく)
(通りかかった一人の婦人、ふと二階を見上げ、
立止って大学生に声をかける)
「二階は貸間なんですか?」
(大学生、下をみる。
あまり器量のよくない女性。
大学生、急いで貸間札をはがして)
「いえ、ちがいますよッ」
(婦人、怒って行ってしまう。
大学生、それを見送って苦笑し、再び札を貼る)
(大学生、カミソリでひげを剃っている。
と、下から子供が上ってきて
一大事と言わぬばかりの注進顔)
「来た、来たッ
今度のはイイよ。きっと気に入るよ」
(大学生、緊張する。
階段を上ってくるのは、とても美しい女学生)
●『若き日』より
シーン7:公園の丘
(白いベンチに座り、
人さらいと子供、一休み。
人さらい、子供の機嫌をとっている。
ひょいと前を見ると、巡回中のお巡りさんが
立ち止って、怪訝な顔で二人を見ている。
ソワソワする人さらいのヒゲを、
子供、やおらひっぱがす)
「何すんだッ!! このガキィ!!」
(と、子供からヒゲを取り戻し、あわてて
鼻の下につけようとするが、つかない。
人さらい、ヒゲに
ハァーッと息を吹きかけ、つけてみるがダメ。
しょうがないと、
ツバをつけて貼ってみるが、これもダメ。
巡査、人さらいの動作を不審に見ている。
人さらい、思いついて、
ヒゲを子供の鼻の下につける。
巡査、ハハンそういう遊びか、と納得して、
くるりと向うへ行ってしまう。
子供、ヒゲを
人さらいの頬ッぺたに貼りつける)
「バカヤロッ!! 何すんだァ!!」
(人さらい、子供の頭を小突く。
子供、応戦して、殴りかえす)
●『突貫小僧』より
シーン2:教室
(卒業試験の学生たち、必死である。
教授は時計を見ながら、教壇のイスに坐っている。
学生A、頭を掻きながら、
教授の様子をうかがい、横のデブに話しかける。
デブ、教授の方をチラと見る。
教授もデブの方を見る。
デブ、視線をはずし、試験にうちこむフリをする。
が、再び、そっと教授をうかがう。
教授、まだデブの方を見ている。
やがて教授、学生たちをジロリ見渡し、
立ち上がって教室をまわって歩く)
(デブ、その隙に、学生服の背中をまくり上げる。
その後の席の学生Bが、デブの白いワイシャツに
びっしり書いてあるカンニングを見る。
学生B、それを答案用紙に書きこむ。
デブ、教授の方を心配そうに見ている。
教授もふと、デブを見る。
あわてて上衣を下げカンニングを隠すデブ。
教授、ジロリとにらむ。
デブとその後ろの学生B、そっと教授の方を見るが
まだにらんでいるので、
考えるフリをして顔を伏せる。
視線をはずす教授)
(デブと学生B、再び教授の方をうかがっていると
学生Cが二人にサインを送る。
学生C、四本指を出して)
「問4を教えろッ」
(学生B、「四番か?」と受けて、
紙きれに解答を書く。
それをちょうど通りかかった教授の
エンビ服の背中のボタンにくっつける)
(それとは知らぬ教授が通りすぎようとしたとき、
学生Cの手がヌッと出て、
教授の背中の“解答”をとろうとする。
教授がとつぜん、ふり返るので、
出した腕のやり場に困り、
仕方なく腕時計に耳をあててゴマかす。
教授が前をむくと、もう一度とろうとするが
また、もうちょっとの所で、教授、ふり返る。
仕方なくまた腕時計に耳をあててゴマかす。
教授、自分の懐中時計をとりだし
学生Cの腕時計と見比べて)
「あっとるよ」
(学生C、情けない顔になる。
去ってゆく教授の背に三たび手をだすが失敗。
教授は、教壇へ上がってしまう……)
(背中にカンニングのメモをくっつけたまま、
イスに坐る教授、
ジロリと学生たちを見渡す)
●『落第はしたけれど』より
シーン44:街
(街燈のポールによりかかって
岡本が向うの喫茶店の方を見ている。
と、その店から
マダムと、例のお嬢さんがでてきて別れる。
そのお嬢さんがこっちへ来るので
岡本はわざと知らん顔をすると、
お嬢さんの方が岡本に気づいて)
「あらッ!!」
(岡本、ことさらに、まるで偶然出会ったように)
「やあッ、
また会いましたな」
「どうなすったンですッ」
(どちらからともなく二人、歩きだす。
ふと、タクシーがとまる。
と、岡本、ナンバーを指す。
ひょっとつられてお嬢さんも見る。
運ちゃんも妙な顔をして出てきて見る。
自動車のナンバー、1795)
「西暦1795年には、
なにがあったか、ご存知ですか?」
「いいえッ」
(お嬢さん、マジメにかぶりをふる)
「……ナポレオンが、
ジョセフィンに恋を感じた年代ですよ」
(お嬢さん、あきれる。
ちょっとニラみ、笑って歩きだす。
岡本、ついていく。
運ちゃん、感情を害す。
と、お嬢さん、ふと、立ち止って)
「じゃ、ナポレオンが、
マリー・ルイゼに失恋したのは
何年か、ご存知?」
(岡本、面喰らう。
お嬢さん、イイ気持ちそうに笑って歩いていくと
岡本、タクシーをとめて、彼女を呼び)
「じゃ、アレ知ってますか?」
(と、タクシーのナンバーを指す)
「いいえッ」
(首をふるお嬢さんに、岡本、言う)
「これは、
私が、あなたをお宅へお送りする
タクシーの番号です」
「へ?」
(岡本、どうぞッ!! と車の扉をあける。
お嬢さん、笑いながら乗りこむ)
●『お嬢さん』より
「空のうろこ雲
白粉の女の美しさ
どちらも長くはもちません
ジャン・コクトー」
●『美人哀愁』より
シーン44:先生の洋食店の内
(店内に入ると、
ガランとして一人の客もいない。
調理場の暖簾をわけて、
奥から先生の老妻がでてくる。
岡島、店内を見廻しながら)
「女給は
いないんですか?」
(先生、苦笑して)
「女給?
あんな軽薄なモノは
置かんよ。
僕は、家内と二人で
清潔にやっとるンだ」
(岡島、頭をかく)
●『東京の合唱』より
シーン60:家
(夜。
二人の兄弟はムッツリ不機嫌である。
そこへ父親が菓子をもって
上機嫌に帰ってくる)
「お父ちゃんッ」
「ん?」
「お父ちゃんはボクらに
エラくなれ、エラくなれ
と言ってるくせに
ちっともエラくないんだねッ」
「なに?」
(母親もオヤと思う)
「ボクは太郎ちゃんよりも強いし
学校だって上なんだッ」
(兄弟、じっと父親をみて)
「でもお父ちゃんは
どういうわけで
太郎ちゃんのお父ちゃんに
ペコペコ頭を下げるの?」
(父親、微笑し当然のことのごとく)
「太郎ちゃんのお父ちゃんは
重役だからだよ」
「お父ちゃんだって
重役になればいいじゃないかッ」
(父親、なるべく落着きを示そうとしながら)
「そう簡単にはゆかんよ。
お父ちゃんは岩崎さんの
会社の社員だからね」
(兄弟、ちょっと判らない)
「つまり、太郎ちゃんのお父さんから
月給をもらっているンだよ」
「月給なんかもらわなきゃ
いいじゃないかッ」
(父と母、そのムチャに驚く)
「そうだ、そんなモノ、
こっちからやればいいじゃないかッ」
(父親、やや呆れながら)
「お父さんが月給をもらわなかったら
オマエたちは学校へ行くことも
ご飯を食べることもできないよ」
(兄弟、そこで、つまってしまう)
(兄弟二人、つまらなそうな顔。
と何か思いついたのか、兄が弟に)
「明日から、ご飯食べてやるの、よそう」
(兄弟、指きりゲンマンする。
そして再び、父母の部屋へ出かける。
父親、オヤと思う)
「どうして太郎ちゃんの
お父ちゃんだけ重役で、
うちのお父ちゃんは
重役でないの?」
(父親、煩わしそうに)
「太郎ちゃんとこは、お金持だからだよ」
「フーン、
お金があるからエラいの?」
(父親、ちょっと自分の意見もいってみる)
「お金がなくて、
エラい人もあるッ」
(兄弟、逆襲する)
「お父ちゃんは、どっちだい?」
(父親、奇襲をうけ、癇をおこし、怒りだす)
●『生まれてはみたけれど』より
シーン2:大学の校庭
(昼休み。
強度のメガネをかけた斎木が、
ノートを読みながら歩いてくる。
彼は非常な勉強家である。
向うから教授が二人、授業をすませて
語りあいながら来る。
彼、その教授にドカンと衝突する。
教授は、小脇に抱えていた本包みを落し、
帽子をとばす。
しかし彼は、相手も見ずに)
「やァ失敬」
(と言った後、依然として
ノートを読みつづけて行く)
「アレは商科の二年にいる
有名な勉強家ですよ」
「できるんですか?」
「(微笑して)いや……(首をふり)
惜しむらくは
中学生程度の頭ですよ」
(両人、大きくアハハハハと笑って歩きだす。
彼、今度は、“紙クズ入れ”に衝突し、
ノートをその中に落して、あわてて捜す)
(学務課の入口から、
喫茶店の娘のお繁がでてくる。
彼女は大部分の学生たちと顔なじみらしく、
通りがかりの学生が、大抵なにか言葉をかけていく。
彼女、立止ってニコニコしながら、
校庭で応援団が練習しているのを見る。
そこへ斎木が
依然としてノートと首っぴきでやってきて
お繁にドンと衝突し、相手も見ずに黙って
ノートを読みつづけながら通りすぎる。
お繁、それをみて笑い)
「いやな斎木さん、
ビリのくせに勉強ばっかりして」
「あッ、
お繁ちゃんか、
ボクは紙クズ入れかと思ったよ」
(と斎木、ニッコリする)
●『青春の夢いまいづこ』より
シーン39:女の部屋
(女、イスにもたれ、足を組んで
別れた男のことをじっと考えている。
その指にはタバコがはさまれて、
細い煙がたっているが、それを吸おうとしない。
テーブルに腰かけた友人の女Bも、
ぼんやり空間をみつめ、タバコをふかしている。
シーンとした感じである)
「どう考えても
女なんて、つまらないモノだね」
(と、女、力なくつぶやく)
(女B、さびしい微笑をうかべて)
「逢って別れりゃ、別れようとママよ、
……そう思ってあきらめるのさ」
(と、なぐさめるように言う。
しかし女は、その言葉に何の反応もなく、
依然として憂鬱に考えつづける)
(と、ドアがすーっと開く。両人、みる。
アパートのおばあさんが、
洗濯モノをもって、入ってくる。
そして洗濯モノを棚におき、
そこに置いてある汚物をあつめて)
「これ、ゴミ?」
(と、女に訊く。
女、気がついて、男の脱いでいったシャツを
おばあさんの方に投げる。
おばあさん、それを拡げてみて、
意味なくニッコリして、もって出ていく)
●『また逢ふ日まで』より
シーン91:バー
(スタンドに並ぶグラス。
その前で、だいぶ酔った
ジョージがのんでいる。
昼間のことを考えてはイライラする様子。
やがて誤ってグラスを落す。
バーテンと顔を見あわせる。
ジョージ、すまねえなッと詫びる。
バーテン、いいえッというが
あまりイイ顔でない。
ジョージ、ちょっとカチンとくる。
札入れをだして)
「いくらだい?
払おうじゃねえかッ」
「まあ、よござンす」
「払おうじゃねえか……」
「いや、よござンすよ」
「すまねえな、
……本当にいらねえのか?」
「ええ」
「じゃあ、十ばかり出してくれ」
(ジョージ、さらにグラスを割っていく)
(バーテン、グラスを出しながら
向うの二人いるゴロツキの方をちらと見る。
ゴロツキ、目顔でうなづき、きこえよがしに)
「どこの
コップ屋のまわし者だッ!!」
(ジョージ、キッと見かえす。
つかつかとゴロツキたちのところへ行く。
ゴロツキ、用意する。
ジョージ、すばやく一人を、のす。
続いて、かかりくる一人をも倒す。
ジョージ、おちついた足取りで
再びバーテンのところへもどる。
ちょっと考え、横手へおいた帽子をとる。
手には、すこし血がにじんでいる)
●『非常線の女』より
シーン45:一膳めし屋
(女給、化粧をしている。
喜八は、その女給の方をしきりに見る)
「とっつァん、
そろそろ出かけねえか?」
(友人が立ちかける。
喜八も「うん」と立ちかけるが、
女給の方をみて、急ににぶって)
「おい、
……今日はオレ、よしにするよ」
(と変な顔をみせて、言う。
友人、えッ?と見て)
「どうしたンだい?」
(喜八、腹をおさえて)
「急に腹が痛くなったンだ」
(と、くるしそうに言う。
友人、チラリと女給の方をみてから)
「馬の脚じゃあるまいし、
ヘタな芝居は、よしなよッ」
(と喜八にいい、ムリに引ッ立てていく。
女給、会釈して見送る)
●『出来ごころ』より
シーン82:ホール
(貞夫、冷やかに母に言い放つ。
母、ハッと立ちすくむ。
顔をおおい泣く)
「ボクは、
お母さんや弟と
いっしょに暮すのなんか、真ッ平です」
(貞夫、切ない気持をこらえて、
母を尻目に、
サッと歩み去る)
(階段で、掃除婦のおばあさんが、
老いさらばえた姿で雑巾がけををしている。
貞夫、足早に、そのそばを上りいく。
掃除婦のおばあさん、「おやッ?」と見送る。
貞夫、階段を上りきり、室に入り、
手荒くとびらをしめる)
(貞夫、窓際から外景に眼をやっている。
ふと一方をみて、
ハッとなり緊張して、悲痛にジッと見入る。
街路を、母、すこしおくれて弟、
悄然と歩みゆく姿がみえる。
貞夫、無言。
顔をそむけてベッドに
ごろりと転がってしまう)
(しばらくすると、
さきほどの掃除婦のおばあさんが入ってくる。
貞夫、顔をふりむけ、ハッとなる。
おばあさん、
部屋に散らばるゴミなどを、かき集めだす。
貞夫、身を起して見まもる。
タバコを出し、くわえる。
おばあさん、貞夫をみて、会釈。
貞夫、なんとなくタバコをさし出し)
「どうです?」
(おばあさん、すこし遠慮したが、
結局一本いただく。
貞夫、火をつけてやる。
おばあさん、吸いつけながら
ふと思いあたった感じで)
「悪いことは言いませんよ」
(貞夫、軽く「えッ?」ともらす。
おばあさん、シゲシゲと見て)
「木の股から生れてきたンじゃあるまいし、
親は泣かせるもンじゃありませんよ」
(と言ってタバコを二服、三服、すう。
そして洗濯物をたたみながら)
「わたしにも
ちょうどあんたぐらいの息子が
あるんですけど……」
(と言い、去りかける)
(貞夫、顔をあげ、苦っぽく)
「オレよりは
マシだって言うのかい?」
(おばあさん、苦笑。
首をふって)
「よけりゃ、
こんな仕事、
してやしませんよ」
(と言って、笑いながら去る。
貞夫、見送る。しばし、思いに沈む)
(やがて扉が開いたので、
貞夫、ゴロリと横になる。
友人がサンドウィッチを皿にのせて、
モグモグ食べながら、入ってくる。
貞夫、横になったまま動かない。
友人、ふと「おやッ?」と思い)
「オマエさん、泣いてるね。
……泣くくらいなら
あんな大芝居しなきゃいいじゃないか」
(貞夫、無言。
背をむけたまま動かない。
友人、窓辺から、そとを見る)
●『母を恋はずや』より
シーン12:楽屋
(一座の親方が、
背に灸をすえてもらっている。
親方、熱がる。
その手前で、子役が、まだガツガツと
スイカを喰っている。
子役の父、見てとがめる)
「やたらと喰いやがって
また、晩に寝小便するなよッ」
「大丈夫だよ」
(子役、なおも喰う)
父「しやがったら、
姐さんにたのんで、
お灸をすえてもらうからッ」
(子役、「えッ?」と親方の方をみる。
親方、熱がっている。
子役、その方をみて、父に)
「親方、ゆうべ、寝小便したのかい?」
(とそっと聞く。
父、「バカッ!!」と叱る)
●『浮草物語』より
シーン20:髪結屋
(夜。
玄関の、上り框のところで、
おたかが、しょんぼり立っている)
「まア、どうしたのさ?」
(おたか、腐って)
「やっちゃったンだよ」
(髪結のおばさん、「これかい?」と
引っかくマネをして訊く。
おたか「うん」とうなずく。
髪結のおばさん、笑う)
「それごらんよッ!!」
(おじさんも、ニコニコする)
(髪結のおばさん、娘に言いつけて
おたかを家まで送らせる。
おたか、モジモジしている。
娘、笑顔で)
「送ってってあげましょうか?」
(おたか、
ちょっと考えたが「すまないねえ」とうなずく。
娘、立ち上がる。
髪結のおばさん、おたかに)
「オマエさんも、だらしがないねえ。
若い娘に送ってもらうなんてッ!!」
(おたかの家。
亭主が、頬ッぺたに貼った
膏薬をなでつつ、苦い顔で)
「これじゃ、みっともなくて
役所へもいけませんよ」
(髪結の娘、あたまをさげて聞いている。
その後ろに、おたかが、うなだれている。
髪結の娘、無邪気に)
「でも、たまのことなんですから……」
(と、わびを言う)
「たまなもんですかッ!!」
(亭主、火鉢のひきだしから、ハサミをだして
おたかの前へ、ポイッと投げてやる。
おたか、腐りつつ、爪をきる)
(数日後、
おたかが、二階の居候の学生に
お茶をいれてやりながら言う)
「あんただって、いつまでも
独り身でいられるわけじゃなし……」
(学生、机の方へ向いたまま、製図機をいじっている。
おたか、それとなく縁談をすすめる)
「ねえ、
……髪結屋の娘さんなら、
お互いに気心もわかってて
イイと思うんですけどねえ」
(学生、顔だけ向けて、笑って)
「ダメだよ。
あんな気の強いの。
……うっかりもらっちゃって、
頬ッぺたでも、引っかかれたら
かなわないからなア」
(おたか、思わず自分の爪をみる。
学生、笑いながら、
机の上のハサミを取って
おたかの前へ、おく。
おたか、「まッ!!」とニラんで)
「夫婦ゲンカの味まで
あんたなんかにまだ分んないわよッ」
●『箱入娘』より
シーン6:店先
染物屋に、おたねと為吉が押しかけてきている。
好人物の染物屋は困っている。
為吉「あの子を誰が茅ヶ崎へ連れていって
置いてくるんだね」
たね「あたしゃゴメンだよ」
為吉「そう言うなよ」
たね「じゃ、オマエさんお行きよ」
為吉「(それには返事せず)どうだい染物屋さん?」
染物屋「冗談じゃないよ」
為吉「(考えついて)じゃどうだい、くじで行こう」
二人は返事しない。為さんしたり顔に、
為吉「一番イイぜ……恨みっこなしだ、
当ったら災難だ、あきらめよう」
たね「うん」(とつられてうなずく)
為吉「なあ、染物屋さん」
染物屋「いいだろう」
為吉が紙切れさいて、硯とりよせ何やら書く。
為吉「×(バッテン)が書いてあるのが当りだぜ、
この人が行くんだよ」
とくじを出す。
おたね、引いて開けて見て、
たね「あたしだよ」
とガッカリしてくじを二人に見せる。
為吉「……ご苦労さんだね」
たね「なんのことはない……踏んだり蹴ったりだよ」
為吉「恨みっこなしだぜ、くじだからね」
染物屋「まあ……災難だよ」
たね「チェッ、あや悪いや」
と、おたね去る。
染物屋、自分のくじをあけて見て変な顔して
染物屋「あ、オレのも×(バッテン)だぜ」
為吉「(澄して)そうなんだよ、
オレのも×(バッテン)なんだ
……気の早い者は損をするんだよ」
染物屋「なるほどねえ(と少々呆れる)」
●『長屋紳士録』より
シーン47:二階
紀子とアヤ、上がってくる。
アヤ「紀子、こないだのクラス会、
どうして来なかったの」
紀子「大勢きた?」
アヤ「14、5人……椿姫もきたわ」
紀子「ああ村瀬先生もいらしったの?
相変らず口角泡を飛ばしてた?」
アヤ「うん、ツバキだらけ」
●『晩春』より
シーン94:上野公園
(周吉ととみ、ベンチに腰をおろして、
ボソボソと南京豆か何かを噛んでいる。
時計をだしてみて、ゆっくりと立上り
街の方を眺めながら)
周吉「なァおい、
広いもんじゃなあ、東京」
とみ「そうですなあ。
ウッカリこんなとこで
はぐれでもしたら
一生涯、探しても会わりゃしやせンよ」
●『東京物語』より
『宝の山』『和製喧嘩友達』『大学は出たけれど』
『結婚学入門』『朗らかに歩め』『その夜の妻』
『足に触った幸運』『淑女と髯』『春は御婦人から』
『東京の女』『東京の宿』『大学よいとこ』
『一人息子』『淑女は何を忘れたか』『父ありき』
『戸田家の兄妹』『風の中の牝鶏』 シナリオの美学 シナリオは本来、映像化されるための下敷きとなる台本である。だから、シナリオは芸術の範疇から外される場合が多い。けれども、本当に素晴らしいシナリオというのは、やはりもうそれだけで素晴らしいのである。芸術なのだ。 その意味で小津さんのシナリオは芸術であると私は思う。読んでも面白いのだ。いや、読んでも面白いから映像化して面白いと言わなければいけないのかもしれない。 ただし、残念なのはこの小津さんのシナリオの良さを多くの人に知ってもらうという点ではこの本は値段が高すぎる。「東京物語」や「生まれてはみたけれど」などの代表作を抜粋して文庫で売り出すなどして、一部のコアなファンだけでなく、小津さんを知らない世代にも伝えていく努力も必要だと感じる。 最高の評伝 編者の井上氏は『小津安二郎の世界』という証言集を作られたり、記録映画を監督されたりした小津安二郎の最後のお弟子さんという方です。そういった背景もあるのでしょうが、ここまでよくできた脚本集を見たことがありません。小津作品の持つ魅力を余すところなく表現していて、映画ファンなら必見の全集ですね。 また、脚本集はただの映画のスクリプトというわけではなく、ひとつの文学、芸術作品としての域まで達しているつくりですから単純に読み物としても素晴らしいものだと思います。 日本映画はかつて素晴らしかったことを表す記念碑的作品です。 ぜひ一読してもらいたいです。
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[ 単行本 ]
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山中貞雄作品集〈全1巻〉
・山中 貞雄
【実業之日本社】
発売日: 1998-10
参考価格: 9,975 円(税込)
販売価格: 9,975 円(税込)
Amazonポイント: 99 pt
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中古価格: 9,000円〜
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・山中 貞雄
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カスタマー平均評価: 5
「小津ちゃんと伊丹さんとワシとで、ヒゲの三兄弟。末弟はおそろしく面が長い」「アゴがつっかえて、ハンドルを持てない」「こらッ!!」 ■21タイトル、収録されている。
シーン:芝居小屋・桟敷
(大吉、
笑いながら大刀抜く。
侍五名、スワと身構える。
まわりは固唾をのむ)
大吉「一人二人……五人か、
まず
五から一引く」
(立廻り、一人殺られる。
ワッと喚声あがる。
大吉、ニタニタ笑いながら)
「四から一引く」
(又一人殺られ、喚声。
大吉、悠々と)
「今度は
三から二引く」
(立廻り、
二人一度にズバリ……
女客もマァーと目を見張る。
大吉、ニタニタ笑いながら)
「残った一つを
二つにする。
縦に二つか?
横に二つか?」
(相手、ガタガタ震えだす)
●『中村仲蔵』より
シーン:ある十字路
(三次、物蔭で小さくなっている。
すぐそばで立ち止る岡ッ引き。
そこへ、子供がやってきて)
「(大声で)みつけたよッ」
(岡ッ引き、その声に振り返ると、驚いて)
「三次じゃねえかッ」
(三次、物蔭から出てくると、観念して)
「今日もまた
旦那のクソづまりみてえな面に
ぶつかりやしたね……」
(岡ッ引き、せせら笑う)
●『恋と十手と巾着切』より
シーン:ある城下町
(団九郎、
盗人にスラれた紙入れを追ってはしる。
盗人、にげる。団九郎、それを追う)
(通りの向うより、
侍が五人ばかりやって来た。
それと見るや、逃げてきた盗人、
突然、立ち止ってクルッとふり返り
スラリと大刀、引きぬいた。
アレッと団九郎、一足退る)
盗人「珍しや、父の敵、
頓間野良兵衛ッ!!」
(ナ、ナニをぬかすと団九郎。
通りかかった侍五人は大喜び)
「恩賞金、百両ッ」
(スラッと五人が大刀抜いて)
「助太刀いたすッ」
(と、団九郎に迫る。
団九郎、おどろいて一目散ににげる。
後を追う五人の侍。
盗人は追おうとせず刀をおさめて、
紙入れの、銭勘定をしながら去る)
●『武蔵旅日記』より
シーン:街道
(旅姿の源太と、
見送るお露の手には、枯れ落葉。
……お露、かなしそうに)
「時節を待つのもいいけれど
あたしも二十四。
女は汚くなったら
お終いだからねえ」
(源太はやさしく)
「そんな事言っちゃいけねえ、
お露さん。
亭主もつなら、堅気がいいぜ」
(と足早に去る。
お露の目に、泪が光った)
●『抱寝の長脇差』より
シーン:長屋
(狂太郎、
ブラリ表へ出た。
サッと物蔭に隠れた二人の侍。
狂太郎、そ知らぬ顔)
狂太郎「この年齢になって
宮仕えというも」
(斬らんとする侍一人を
ジロッと睨んでおいて)
「感心せんからのう」
(と言った時、
もう一人も斬ってくる。
狂太郎、そいつらを投げて)
「三日やると
止められんのが
乞食と居候の味でなァ」
(で二人の侍、ノビてしもうた。
そばで見ていた者、驚いてる)
「何うです、あの凄腕は?」
●『口笛を吹く武士』より
シーン43:宿屋の室
(清吉、窓から往来を見ている。
お蘭にクスクス笑われる。
清吉、とうとう
我慢できなくなり、ケンカ腰で)
清吉「本当の話しが、
お蘭さんッ……
オレはおまえの面ァ見ていると
熱が出るんだッ」
(お蘭、恐ろしい顔で清吉をにらんで)
「熱の出る顔で、悪かったァね」
(お蘭、独り言のように)
「江戸にいるとき
この顔に
ぞッこん惚れた馬鹿があったっけね」
(清吉、苦い顔)
●『薩摩飛脚 後篇』より
シーン:街道
(盤嶽、旅にでた。
とおく秩父の連山をながめて感慨深し。
道ばたの乞食、めく らと書いた札を
首から下げている。
盤嶽、同情して銭をあたえて歩きだす。
そのとき紙入れを落としてしまう)
(めく らの乞食が、パッチリ眼を開いた。
紙入れをひろおうとしたとき
盤嶽、気がついて振り返る。
乞食、あわてて元の場所へ戻る。
盤嶽、呆れる)
「貴様よくもッ」
(乞食、平気な顔で、めく らの札を裏返す。
ナンと、つん ぼと書いてある。
盤嶽、呆れてモノが言えん)
●『盤嶽の一生』より
シーン23:長屋
(浪人Aとお京、
入り口で肩を並べている。
家主が店賃を集めてに
やって来て、お京に驚く)
「奥さんを貰ったのかね?」
(二人、テレて)
A「ちがうよ、大家さんッ
今日からこの家は
このお京さんが借りるよ」
(お京、小判を出し)
「お釣り御座いますか?
小判が一枚ッきりなんですわ」
大家「来月でも何日でも結構ですよ」
(隣の住居の浪人B、壁越しに聴いている。
大家が訪れる)
「小判で釣りがあるかね?」
(大家ハイハイ御座いますよ、
と算盤をパチパチやり出す。
浪人Bが怒った)
B「ナンダ、釣りがある?
このスケベ親爺めッ
いま貴様、となりで釣りが無いと
言ったではないか?」
大家「おとなりは、今月分の店賃が一つ。
オマエさん処は
今月で、もう九つも滞ッとるわッ
一両では足らんぐらいじゃ」
(浪人B、急に三拝九拝、拝み倒しの手にでる)
●『風流活人剣』より
シーン19:宿屋茶屋・杉屋の部屋
(雁太郎、かんざしを手に
意外な顔をする)
「落したの……本当に……オマエか?」
お勝「え、あッ
これこれ、このかんざしだわッ
確かにコレだわッ」
「おか しいな……?」
お勝「なにがおか しいのよ、この人」
「うーん、
これを落したのは
オマエだったかな?」
お勝「そうよ、あたしよ。
イヤだよこの人、疑ってンのね」
「いや、
……そうかな、
もう少しマシな顔だと思ったがな」
お勝「なに言ってんのサ、
あたしはね、
生れた時が朝早くだったの、
だからね、
日が暮れると少し器量が落ちンのよ」
「落ちかたが、ひでェや」
●『雁太郎街道』より
シーン59:宿屋の前
(国定忠次が、
旅のクスリ屋になって、
笠をかぶったまま、宿屋へ入っていく)
(その宿屋の二階で
番頭が、障子をあけて)
「おおッ、山形屋の親分様。
ただいま、貴方様に
お目にかかりたいと云って……」
「どンなヤツだ?
また草履銭でもネダリに
来やがったンだろう、
……追ッ払ッてくれ」
「いいえ、それがクスリ屋さんですが、
なにか親分さんにおねがいがあると
申しております」
「なに、クスリ屋……?」
(山形屋、フに落ちない顔で立ちあがる)
(笠をかぶったまま、
クスリ屋の、忠次が立っている。
二階の広いハシゴ段をおりてくる山形屋。
誰だろうという風に、そこからひょいと
土間のほうを見たが、フに落ちない)
「何ンだ、オマエか?
用というのは」
(笠をかぶったまま、
忠次がつっ立っている。
山形屋、ギョロリと見つめる。
すこぶる機嫌が悪い)
「へえ、これは
山形屋の親分さんでございますか。
手前は、富山のクスリ売りでございますが」
「おいおいッ
クスリ屋、あいにくだッ、
オレはまだ三文薬のご厄介になるほど、
モーロクもしていねンだッ」
「いいえ、
クスリにも、いろいろございます。
腹痛、疝気、
中風、虫封じのクスリから、
首から上の病、一切にきくクスリが
ございますが」
「なにッ?!
……縁起でもねえことを云やァがる。
おい、クスリ屋、笠をとれッ」
「へえ、旅渡世、
クスリ屋の定法、
笠のまま、御免こうむりまして、
……笠の内から
親分様におねがい申します」
(山形屋は忌々しそうに
帳場の番頭をふりかえる)
「オイ、番頭ッ」
「へえ」
「オマエ、通じ薬でも買って、呑め。
……何ンでえ、
こんなクスリ屋を通しゃアがって」
(山形屋、番頭をどなって、奥へ入りかける)
「親分さん、
ちょっと、お待ちなすって」
(忠次、よび止める)
「なんだッ」
「へえ、薬も薬でございますが、
それよりも山形屋の親分さんに
五十両いただきにまいりました」
「なに……??」
(山形屋の子分が、七人、八人、おりてくる)
●『国定忠次』より
シーン101:賭場
(夜。
丹下左膳、安坊をつれて、
六十両のカネを儲けてみせると
賭場にきた)
「丁だ」
「半だ」
「勝負ッ」
(で左膳、負けつづけて)
「うー……」
(と唸る。
安坊、側から)
「おじさん負けると唸るンだね」
「黙っとれ」
「半だ」
「よし丁だ」
「半だ」
「丁だ」
「半ッ」
「勝負ッ」
(で左膳、また負けた)
「おじさん、また唸ったね」
(夜道を、負けて帰る)
「日が悪かった。
うー……」
「おじさん、まだ唸ッてンだね」
(左膳と安坊、
曲り角を通る。
そこでバッタリ出会った男、
……これが安坊の父親を
殺ッた、例の男です。
その男も、左膳に気づいて驚く。
左膳、悠々と)
「安、目をつぶってろ」
「なぜだい?」
「いいから眼をつぶって、
一ツ、二ツと、十数えろ。
それまで眼を開けるンじゃねえぞ。
そら、よしッ、数えろ」
「一ツ、二ツ、三ツ…………十」
(その間、
「えいッ!!」
「あッ、う……ん」
となる)
「安ッ、さッ行こう」
「あのおじさん、なぜ唸ッてるの?」
「博奕に負けたンだろう」
(残党が、物陰から、こそっと見ている)
●『百万両の壺』より
シーン1:オープニング
(御老公……
英明闊達で、
たいへん世情の機微に通じておられた。
ある夜の川端。
お忍び姿で、家臣五名を従えて御散策……。
やがて御老公の目に、
さびしく水面をみつめて立つ女の姿が映じた)
老公「家老、今は何月じゃ?」
A「師走も半ばの14日にございます」
老公「師走とあらば、水も冷たいであろうのう」
A「御意ッ」
老公「身投げじゃ……
麗しき子女じゃのう、
……いや余が助けてとらすッ
皆のモノ、退れ退れッ」
(家臣たち、顔見合せて、引き下れば、
御老公、女の側へ近づいていく。
そして、まさに身を投げンとする女に飛付いた)
女「放してくださいッ」
(女と老公、争った。
その時、ひとりの浪人がかけつけて来て、
女に抱きついている御老公をみて怒った)
浪人「このスケベ親爺めッ」
老公「無礼者ッ!!
余をなんと心得るッ?!
先の中納言……」
浪人「うるさいッ」
(浪人、御老公を、川の中へ投げこんだ。
そして、浪人、扇をひろった。
女はいつのまにか姿を隠した。
家臣たち、あわてて老公を助ける。
浪人、ひろった扇を口にして、歌って去る)
●『海内無双』より
シーン:居酒屋
(戸外の雪。
お女将さん、長火鉢の前ですわる。
二階から、女衒屋がおりてくる)
「馬鹿に冷えこむと思ったら、
とうとう雪ときやしたね、
……ちえッ、
こっちの懐中まで
冷えこんでるンだから世話ァねえや」
「オマエさん、またスッたのかい?」
「ここんところ、
目無しのダルマでね、
からっきし、だらしがねエんでさア」
(お女将さん、表障子をあけて、外の雪をみる)
●『河内山宗俊』より
シーン:村の飲み屋
(安蔵が呑んでると、
親分の銭瓶が
子分をつれて入ってくる)
「いらっしゃい」
「おい、安が来てねえか?
おッといた、いた」
(安蔵、慌てる)
「おい、安ッ」
「これァ親方……」
「安ッ、オレの帳面じゃ
昨日の約束になッてるンだ」
「へッ、そいつァよく承知しております」
「じゃ払ッてもらおう」
「そッ、そんなムチャな事を、親分……
払えッたッて御覧の通り
スッテンテンで……」
「オマエッ、酒を呑む銭があるなら
貰っていこうじゃないかッ」
「親方、
そう因業なことをおっしゃらずに
……あッしの酒は
なにも贅沢で、呑むンじゃねえ……
つまり、その、
タコが足を喰うようなモンでさァ
……タコ酒ッてんで……」
(安蔵ペコペコ。
親分、苦笑する)
●『海鳴り街道』より
シーン22:長屋
(岩吉、出獄し、
妹夫婦の家へ招かれる。
妹が、仕立下しの着物をもってくる。
すっかり感激した岩吉)
「ありがてえ……
オレぁ今、おまえ達二人の前で誓う。
岩吉は、今日限り、生れ代る。
まともな人間に、生れ代る。
二度と、昔のような事ァしねえ」
(妹、泣いてるのか、言葉なし。
小さい甥ッコには、よく分からない)
岩吉「これを着る前に
昔のアカ、落してくらァ。
おい、湯はどこだっけ?」
妹「あ、お湯屋はね……あ、そうだ。
坊ッ、オマエ、
叔父さんと一緒に湯へ行っといで」
坊「イヤだいッ
もっと遅くでないとイヤだいッ!!」
妹「どうしてだい」
坊「今頃行くと混んでるンだもの、
泳げないから、つまんないやッ」
妹「馬鹿だねこの子は。
泳ぐと、お湯屋のおじさんに叱られるよ」
(湯屋。
甥ッコがいった通り、混雑している。
甥ッコと岩吉、入ってきた)
「いらっしゃい」
「どうだいおじさん、やっぱり
混んでるだろう」
(岡ッ引きが
湯から上って帰り仕度をしておりました)
「岩吉じゃねえか」
「あッ、これァ親方さん……」
「オマエ、今日出てきたってね」
「へ、おかげさまで」
「どこに居るンだい」
「当分、妹の厄介になろうと思って」
「ご近所にご迷惑をかけるなッ」
「へい……御免なすって」
(と急ぎ、湯槽の方へいく)
(傍の客が、岡ッ引きにたずねた)
「ついぞ見かけぬヤツですが、
誰です?」
「アレかね?」
「へ」
「なーに、今日、
島から帰ったばかりのヤツさ」
「シマ?」
「入れ墨モンさ」
「あ、そうですかい……」
(それからそれへと湯屋の客に伝わった)
「へー、人殺しで」
「大泥 棒ですッて」
「なるほどッ……ごらんなさい。
あそこン所に入れ墨がありますよ」
「入れ墨モン?」
「入れ墨ッ」
(湯屋の客、
コソコソと一人二人と出てきます。
湯槽には一人もいなくなって、
岩吉、ぼんやり考えこんでる。
甥ッコ、大きな湯槽で、得意になって
ドタンバタンと泳いでいます)
●『街の入墨者』より
シーン5:野武士団の山塞
(野武士たち、
集まって仕事の話をしている。
離れたところで
野武士AとBの二人、
昨夜の獲物のツヅラの中から
鉄砲をとりだして、ひねくり廻す。
射ち方がわからず、熱心に研究している)
A「ここをこうして……と」
B「そうだ、そうだ、
きっとそうだぞ。
そしてこれにこう火を点けて
それからこれをこう引ッぱッて」
(ドカンッ!!
と、とたんに発砲……
二人はひっくり返って、鉄砲をなげだす。
表で、馬がおどろく。
一同おどろいて叱る)
A「(平気な顔で)どうだ、射たぞッ!!」
(野武士の一人がふと、
馬のひづめの音におどろき)
「あッ、馬が逃げたぞ」
「なにッ、馬ッ」
「だれかあとを追え、あとをッ!!」
(と五六人が口々にさけんで表へ走りだす)
A「(威張りながら)なに、馬が逃げたと?
ええい、繋いでおかぬから逃げるのだ。
育ちの悪いヤツは日頃
馬などに乗りつけぬからこのザマだ、
笑止なッ!!
そもそも馬から下りたならば、
必ず手縄を繋いでおくというものは、
武士たるモノの心得、
夜討、早駆けの、兵法の序の口だぞ。
このわしを見ろ、わしなぞは……」
C「おい、
逃げたのはおぬしの馬だ」
A「なッなにッ!!
わしの馬??」
(あわてて飛びあがるA。
一同の笑声)
●『戦国群盗伝』より
シーン11:長屋
(夜。
首吊りのあった家は
お通夜で、にぎやかです。
大家がくれた五升の酒に酔って
長屋の連中、陽気に唄っている。
子供たちが、のぞきこんでいる
木魚がポクポク、
それも派手なアホダラ経の合唱です。
さらに三味線がはいってくる。
三味線にあわせて踊る者もある。
踊り終わって、わァッと喚声、拍手)
A「呆れた人たちだよ。
お通夜だか、
お祭りだか、分かりゃしない。
死んだ仏にすまないッて気が
起らないのかね」
B「なにを言ってやンでッ
……しかし、なンだな。
人間ッてヤツぁ、月に一度は
こういう遊びをやらンといかんな。
元気がなくなるよ」
C「そりゃもっともだ、
どうだね、ひとつ、
来月はオマエさんがやれよ」
B「オレにやれって、何をやるンじゃ?」
C「オマエが首を吊るんだ。
みな、喜ぶぜ」
B「ばッ、馬鹿やろー」
(大家が入ってくる)
「やいやい与太者ッ、
なにが嬉しくって踊ってやがるンだ」
「よー、大家の大明神ッ」
「やかましいッ、
だれだ、茶碗なんか叩きやがって、
馬鹿やろメッ、
死んだ者が生き返るじゃねえか」
「まッまッ大家さん、まずこちらへ」
(一同よってたかって、大家を座敷へあげる)
「まッ一杯いきましょう。
もう少し酒が足りねえンですが……」
「なにッ……ふん。
ゴミッため野郎ばかりが揃ってやがる」
D「しかし大家さん、今夜は大出来だ。
酒五升とは、はづみましたね。
五升とは……」
(大家、その酒をのんで、皿の刺身をつまむ)
大家「なんだ?
この刺身、だれが買った?」
E「だれが買ったッて、
あっしが、
そこの丸徳で作らしたンですが……」
大家「ふむ、どこで買っても構わねえが、
なんだ、この薄さは?
こう薄ッぺらに切っちゃ、
歯ごたえもないじゃないか」
(大家、ペロリと喰う)
E「なるほどね、
さすが大家さん、江戸ッ子だ。
おい、みんな聴いたか?
こんな薄ッぺらな刺身は喰えねえそうだ。
おい与七、オマエご苦労だが、
そこの丸徳へ行って
酒をもう二升とそれから、
刺身を十人前、いってきな。
いいか、こんな薄ッぺらに切っちゃダメだ、
もっと厚く切るようにいうンだぞ。
なーーにッ、金はいらねえ、
ここの大家さんが
そう言ったといやァいいんだ、
早く行ってこいッ」
(大家、思わず酒をふきだして、おどろく)
「どうも大家さん、すみませんね」
(一同、大家に礼をいい、また唄がはじまる)
●『人情紙風船』より
『なりひら小僧』『帯解け仏法』
『鼠小僧次郎吉』『森の石松』計21作品 書かれていない動き 山中貞雄の遺作となった『人情紙風船』の山場、髪結いの新三に嫁入り前の娘お駒を誘拐されたと知った白子屋が差し向けた、弥太五郎源七とその子分たちを前に、新三は落ち着き払ってか、はたまた心臓が破れそうなのを必死になって耐えているのか、小柄をポトリと畳に落としてはそれを引き抜き、またぽとりと落としては引き抜く。 見るものの目に強烈に焼き付く、中村翫右衛門演じる新三のこの動作は、この本に収録された脚本にはまったく書かれていない。あの動作は監督山中貞雄の演出によるものなのか、それとも保守的な歌舞伎の世界を飛び出し、前進座の中心人物となった翫右衛門自身によるアイデアなのだろうか。何れにしろ、残された三本のフィルムとここに収録された脚本とを何度も見比べる事で、私達は29歳で夭折した天才監督の演出に近づく事が出来る。
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